酔いどれオンジの随想録(エセー)

酔いどれオンジの随想録(エセー)

日常系の随想録です。

おばいけ

就職してから、初めて、広島で一人暮らしをした。

一番困ったのは、休みの日の食事やった。

インスタントラーメンばかりでは飽きる。

仕事上、時間が不規則のため、日頃の食事は、外食(と言うより飲み歩き)で、休日だけ自炊すると食材が余ってしまう。

家の前には、喫茶店があったが、夕方には閉まり、アルコールは置いていない。

近所に焼肉屋が一軒あったが、一人で入れる雰囲気ではなかった。

ちょっと足を伸ばしてみると、【めし】と書いた、所謂、大衆食堂を見つけた。

思い切って入ってみた。

休日の夕方だったこともあり、客はいなかった。

店主と思われる60代後半の女性と、奥の小上がりには、柴犬がちょこんと座っていた。

店内を見渡すと、うどん、蕎麦、カレー、ビール、日本酒等の張り紙、奥には冷蔵ケースに惣菜が並べられている。

ケースの上に【オバイケあります】と書いた張り紙。

思わず、「オバイケって何ですか」と聞いた。

店主によれば、「クジラのさらしたん」というらしい。

ケースを覗いてみると、大阪で言う、「オバケ」やった。

 

取り敢えず、オバイケを取り、ビールを頼んだ。

大阪で、オバケを食べても、何とも思わなかったが、ここのオバイケは、良く冷えて、酢味噌とのコラボレーションが最高だった。

店主の話では、中国地方では良く食べられており、特に、山口県では、クジラ関連は美味いとの事だった。

その後、日本酒を注文し、イカ刺しとサバの塩焼きを食べ、豆腐の味噌汁で〆た。

 

オバイケがキッカケで、この店には、週に1回、通う様になった。

俺が、大衆食堂が好きになった原点の店であり、今の食癖の原点となった。

 

しかしながら、広島勤務は、2年近くで、その後、転勤となった。

転勤後、6年近く経過し、たまたま広島に行く用事があり、久しぶりに店に寄ってみたが、すでに、店はなくなっていた。非常に残念だ。